2005年 07月 13日
人権擁護法案への疑問 |
筆者は、このブログで今まで一度も人権擁護法案についてはコメントしてこなかった。それは、様々なブログなどを通して見ても、反対派は、その法律の危険性を語り、一方で賛成派はといえば、危険なことなどは起こらないと主張する。これでは、いわば水掛け論である。
そもそも法律とは、言い方が悪いかも知れないが、誰かが助かる一方で、誰かが「苦しむ」ものなのだ。少なくとも、まず議論すべきは、人権擁護委員の銓衡に関する問題などではなく、あくまで本法案の必要性がどれだけあるか、他方、本法案によってどれだけの弊害が考えられるのか、という問題である。
筆者は、所詮、法律などは執行機関の裁量にかかる部分が小さくないと思っている。その解りやすい例を挙げれば、例えば売春防止法があるにもかかわらず、ソープランドがなぜ多数存在するのだろうか!ソープランドとは、あくまで「特殊」な個室浴場であるといった御題目が通用しているのは、まさに裁量と云うほかあるまい。まさか警察官が、こういったところに出入りするなどという事はないだろうが(笑)、だからといって捜査・調査も行わないのは、不当であろう。
また刑法第185条で「賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物にかけたにとどまるときは、この限りではない。」とあり、同第186条「1.常習として賭博をした者は、三年以下の懲役に処する。2.賭博場を開帳し、又は博徒を結合して利益を図った者は、三月以上5年以下の懲役に処する。」とあるにもかかわらず、パチンコ屋が乱立し、NHKまでが競馬中継を行うのはなぜなのか!
もっと言おう。パチンコ屋の営業については、風俗営業法第23条がある。この中でパチンコ営業の禁止行為として「1.現金又は有価証券を賞品として提供すること。2.客に提供した賞品を買い取ること。3.遊技の用に供する玉、メダルその他これらに類する物を客に営業所外に持ち出させること。」という規定がある。ではパチンコ屋で普通に行われている換金という行為を、何故警察は平然と見逃しているのか!警察官は誰一人パチンコをしたことがないのか!そもそも捜査はどうなっているのか!
もとより、こういった運用部分においても社会的に見て問題がなければ、許容されるであろう。そもそも売春などというものは、法的に禁止しておかなければ、社会のモラルが崩れる一方で、人類最古の産業などといわれるように、厳格に取り締まれば取り締まる程、より犯罪化の傾向を帯びてくるものというべきだろう。1920年代のアメリカの禁酒法こそがマフィアを作り出したという轍を踏んではなるまい。このことはギャンブルについても、同じことが言えよう。
しかし、この警察による法律の運用という部分には、全く問題はないのかといえば、実はここにこそ、ひとつの人権侵害の温床となっていると言わざるを得ない。とりわけ風俗営業法に関する部分で、外国人が人身売買に近いような形で日本に連れてこられて、売春行為を強要されたりする事態がおこっているとのことである。その意味で、まずは人権擁護法案の議論の前に、法律がきちんと適用されず人権を侵害されて苦しんでいる人たちの存在を看過することない対応が、何より求められよう。これは人権委員会などではなく警察の問題にほかなるまい。
以上のように、法律とは、結局運用次第であるということを前提として、まずは人権擁護法の必要性を考えたい。一応、考える上でBewaadさんのWeb「人権擁護法反対論批判 faq編」2005年4月9日付」を参考にさせて頂く。大変便利なので使わせていただくが、Bewaadさんが賛成派であることを踏まえ、慎重に考えたい。
反対派は、この人権擁護法を在日韓国・朝鮮人問題や同和団体問題などに引きつけて、彼ら人権問題について特定の利害関係を有する団体が、人権擁護委員として法的な権限をその団体のために濫用するおそれがあると警戒する。そもそもこの法案の必要性を理解されていないようである。これに対して、BewaadさんのFAQでは、どのような人権侵害がこの法律の対象となるのかとして以下のように述べる。
今後の法執行の内容を保証・制約するものではありませんが、参考例として、平成15年度の人権侵犯事例についての法務省資料によると、暴行虐待(夫の妻に対する暴行,児童虐待等)、強制強要(離婚の強要,職場での嫌がらせ等)、住居の安全に関する侵犯(騒音をめぐる近隣間の争い等)のトップ3で約13,000件(全体の7割弱)が人権侵犯として認知されています。ただし、このうち最後の「住居の安全に関する侵犯」については、人権擁護法案が対象とする人権侵害(典型的には差別と虐待)には該当しないものが多いと思います。
すなわち、人権擁護法の法執行の7割近くは、本来的にDV(家庭内暴力)などを対象としているものになるだろうということである。かたや在日朝鮮人問題などを理由に反対している人々に対し、賛成派の主目的がDV対策では、議論がかみ合わないのも無理はない。
確かにDV問題は、現在かなり大きな問題である。夫の暴力に苦しめられている奥さんの話や、児童虐待の話などよく聞く話であり、許し難いものである。その一方、警察ではなかなか介入できない問題でもある。児童虐待の方は、まだ保育園や児童相談所などで、保護といったことも可能であろう。それでも保育園の保母さんにしても、毎日子供がアザを作っているからといって、親御さんから「階段から転びまして…」などと笑っていわれでもしたら、なかなか児童相談所に報告するということは難しいだろう。ましてや夫婦間の暴力問題では、外では恥ずかしさの余り本人自身が、繕ってしまうこともあるだろう。これでは、警察には手の出しようもない。こういう場合には、確かに人権委員会のような委員会制で対応するしかないだろう。
しかし、である。賛成派の主目的はDV対策と書いたが、しかし実際の本法案が禁止する「人権侵害」とは、以下のようになっている。
人権擁護法案
第三条 何人も、他人に対し、次に掲げる行為その他の人権侵害をしてはならない。
一 次に掲げる不当な差別的取扱い
イ 国又は地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する者としての立場において人種等を理由としてする不当な差別的取扱い
ロ 業として対価を得て物品、不動産、権利又は役務を提供する者としての立場において人種等を理由としてする不当な差別的取扱い
ハ 事業主としての立場において労働者の採用又は労働条件その他労働関係に関する事項について人種等を理由としてする不当な差別的取扱い(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和四十七年法律第百十三号)第八条第二項に規定する定めに基づく不当な差別的取扱い及び同条第三項に規定する理由に基づく解雇を含む。)
二 次に掲げる不当な差別的言動等
イ 特定の者に対し、その者の有する人種等の属性を理由としてする侮辱、嫌がらせその他の不当な差別的言動
ロ 特定の者に対し、職務上の地位を利用し、その者の意に反してする性的な言動
三 特定の者に対して有する優越的な立場においてその者に対してする虐待
これで見ると、DV問題は、最後の1行に他ならない。おっと「職場での嫌がらせ等」に関する点については、一のロ、二のロ等になりますかね。ただし、それでも差別行為全六項目中、「人種等」を理由とするものが三つもあるというのは、やはり反対派の方々が心配する在日朝鮮人問題こそが、主目的と考えざるを得ないのではないだろうか。BewaadさんのFAQにある、「どのような人権侵害がこの法律の対象となるのか」の答えが、「暴行虐待(夫の妻に対する暴行,児童虐待等)、強制強要(離婚の強要,職場での嫌がらせ等)、住居の安全に関する侵犯(騒音をめぐる近隣間の争い等)のトップ3で約13,000件(全体の7割弱)が人権侵犯として認知されています。」では説明になっていないという他あるまい。是非残り三割の「人権侵害」がどのようなものか、さらには「人種等」を理由とする「人権侵害」がどのようなものなのかを明らかにしていただかなければなるまい。
さらにもう一つ問題がある。それは人権侵害の定義の問題である。BewaadさんのFAQによれば、これについては以下のようにある。
確かに第2条第1項の定義は曖昧です。しかし、人権侵害を禁止する規定(第3条第1項)においては例示がなされ、解釈の方向性が示されていること、単に人権侵害というだけでは強制力のある措置は発動できないこと、強制力のある措置のトリガーとなる人権侵害はより限定的な定義がなされていること(第42条第1項)、現に司法手続において基準となっている法律の規定(民法第709条など)はさらに曖昧であること(=この法律により、程度問題とはいえ曖昧さが減じること)をあわせて考える必要があると思います。
現状の「人権侵害」より曖昧さが減じるということである。確かにそれはその通りであろう。しかし問題は、この法案が必要であるという背景として、現在の日本では「人権侵害」が「存在」するということである。とすれば、もしかしたら我々が意識していない発言が、「人権侵害」とならないのか、ということである。さらにいえば、ここでいう「人権侵害」とは民法第709条など民法が定義するところの「人権侵害」の範囲内なのかどうか、ということである。
またこれと共に、議論のある点として、BewaadさんのFAQにある以下の問答である。
(Q)国際的に非難されている日本における人権侵害とは公権力によるものであるにもかかわらず、人権擁護法は公権力による人権侵害について手当がなされておらず、問題ではないか。
(A)「答申」において明記されているように、人権擁護法案は警察・入管での人権侵害を問題として指摘した国連の規約人権委員会の勧告を含む最終見解を踏まえたものです。具体的には、人権擁護法案第42条第1項第3号イにおいてそれらの人権侵害が明示的に規定されています。
これを見ると、日本には公権力による人権侵害が「国際的に非難されている」とのことである。しかし筆者には、この「国際的な非難」は全く理解できないが、例えば入管の問題を取り上げれば、これが、上述の売春目的の人身売買などの問題であるなら笑止である。それこそ新法を作る意味などないだろう。またもし国際的に非難されているという「人権侵害」が、不法入国にかかわる問題でも同様である。より法的に厳正な対応をとることだけで充分なはずである。なお、これに関しては、一部にだけ法務大臣の特権や「歴史的経緯」?などを理由に、特別永住権を与えたりすることが、何よりも差別を生み出していることだけは、あえて主張しておきたい。
何にせよ「人種等を理由としてする不当な差別」というものが、現実、どういった形で存在するのかが語られなければ、本法の是非は云々出来まい。なお、もう「ゴネ得」となるだけの議論はゴメンである。
ただし筆者は、まだ人権擁護法案について、賛否を明確にする段階にはない。実際、13,000件にも及ぶというDV問題や、職場での嫌がらせなどについては、何らかの対策が必要であると思うし、そこには人権委員会的なものが必要になるだろう。それはパリ原則に基づき内閣府の外に独立機関として設置すべきだろう。そのためには憲法改正でも何でもすればよかろう。実際、その意味では、この法案が悪だと言うつもりはない。否、時々ニュースになる児童虐待などの話を聞けば、なんとか新法でも作って対応すべきだと考える。
これに関しては、BewaadさんのFAQにある、
(Q)人権侵害については、司法手続で対応すべきではないか。
(A)「「答申」においては、(民事)司法手続については、厳格な手続であり、また、事後的な損害賠償が中心であるが故に、簡易・迅速な対応が困難であることに加え、証拠収集や費用負担などにより司法手続を活用できない被害者がいると指摘されています。
といった議論についても、大変よく理解できる。
とはいえ、この法案の執行対象の7割にもあたるはずの、これらの問題が、あくまで同法案の主目的でなく、本法案通過のための言い訳として利用されるだけで、何らか在日韓国・朝鮮人問題や同和団体問題のためのものであるなら、それこそ悪辣なたくらみであると主張したい。まずは「人種等を理由としてする不当な差別」といった語句ははずして、DV法とでもいうべきものを実現すべきなのではないだろうか。そのためならば人権委員会の設置も反対は
少なかろう。その上で、もし、本当に「人種等を理由としてする不当な差別」があるならば、別にそのための法案を作るべきではなかろうか?残念ながら、BewaadさんのFAQからは、現在の日本の「人種等を理由としてする不当な差別」の実態は見えず、それゆえ、ここで最初に書いた人権擁護法案の必要性はわからなかった。
もとより憲法第14条において。「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」とある。もしこれが、不当にゆがめられているというなら、何らかの対応が必要となろう。
皆さんの叱正を乞う次第である。
そもそも法律とは、言い方が悪いかも知れないが、誰かが助かる一方で、誰かが「苦しむ」ものなのだ。少なくとも、まず議論すべきは、人権擁護委員の銓衡に関する問題などではなく、あくまで本法案の必要性がどれだけあるか、他方、本法案によってどれだけの弊害が考えられるのか、という問題である。
筆者は、所詮、法律などは執行機関の裁量にかかる部分が小さくないと思っている。その解りやすい例を挙げれば、例えば売春防止法があるにもかかわらず、ソープランドがなぜ多数存在するのだろうか!ソープランドとは、あくまで「特殊」な個室浴場であるといった御題目が通用しているのは、まさに裁量と云うほかあるまい。まさか警察官が、こういったところに出入りするなどという事はないだろうが(笑)、だからといって捜査・調査も行わないのは、不当であろう。
また刑法第185条で「賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物にかけたにとどまるときは、この限りではない。」とあり、同第186条「1.常習として賭博をした者は、三年以下の懲役に処する。2.賭博場を開帳し、又は博徒を結合して利益を図った者は、三月以上5年以下の懲役に処する。」とあるにもかかわらず、パチンコ屋が乱立し、NHKまでが競馬中継を行うのはなぜなのか!
もっと言おう。パチンコ屋の営業については、風俗営業法第23条がある。この中でパチンコ営業の禁止行為として「1.現金又は有価証券を賞品として提供すること。2.客に提供した賞品を買い取ること。3.遊技の用に供する玉、メダルその他これらに類する物を客に営業所外に持ち出させること。」という規定がある。ではパチンコ屋で普通に行われている換金という行為を、何故警察は平然と見逃しているのか!警察官は誰一人パチンコをしたことがないのか!そもそも捜査はどうなっているのか!
もとより、こういった運用部分においても社会的に見て問題がなければ、許容されるであろう。そもそも売春などというものは、法的に禁止しておかなければ、社会のモラルが崩れる一方で、人類最古の産業などといわれるように、厳格に取り締まれば取り締まる程、より犯罪化の傾向を帯びてくるものというべきだろう。1920年代のアメリカの禁酒法こそがマフィアを作り出したという轍を踏んではなるまい。このことはギャンブルについても、同じことが言えよう。
しかし、この警察による法律の運用という部分には、全く問題はないのかといえば、実はここにこそ、ひとつの人権侵害の温床となっていると言わざるを得ない。とりわけ風俗営業法に関する部分で、外国人が人身売買に近いような形で日本に連れてこられて、売春行為を強要されたりする事態がおこっているとのことである。その意味で、まずは人権擁護法案の議論の前に、法律がきちんと適用されず人権を侵害されて苦しんでいる人たちの存在を看過することない対応が、何より求められよう。これは人権委員会などではなく警察の問題にほかなるまい。
以上のように、法律とは、結局運用次第であるということを前提として、まずは人権擁護法の必要性を考えたい。一応、考える上でBewaadさんのWeb「人権擁護法反対論批判 faq編」2005年4月9日付」を参考にさせて頂く。
反対派は、この人権擁護法を在日韓国・朝鮮人問題や同和団体問題などに引きつけて、彼ら人権問題について特定の利害関係を有する団体が、人権擁護委員として法的な権限をその団体のために濫用するおそれがあると警戒する。そもそもこの法案の必要性を理解されていないようである。これに対して、BewaadさんのFAQでは、どのような人権侵害がこの法律の対象となるのかとして以下のように述べる。
今後の法執行の内容を保証・制約するものではありませんが、参考例として、平成15年度の人権侵犯事例についての法務省資料によると、暴行虐待(夫の妻に対する暴行,児童虐待等)、強制強要(離婚の強要,職場での嫌がらせ等)、住居の安全に関する侵犯(騒音をめぐる近隣間の争い等)のトップ3で約13,000件(全体の7割弱)が人権侵犯として認知されています。ただし、このうち最後の「住居の安全に関する侵犯」については、人権擁護法案が対象とする人権侵害(典型的には差別と虐待)には該当しないものが多いと思います。
すなわち、人権擁護法の法執行の7割近くは、本来的にDV(家庭内暴力)などを対象としているものになるだろうということである。かたや在日朝鮮人問題などを理由に反対している人々に対し、賛成派の主目的がDV対策では、議論がかみ合わないのも無理はない。
確かにDV問題は、現在かなり大きな問題である。夫の暴力に苦しめられている奥さんの話や、児童虐待の話などよく聞く話であり、許し難いものである。その一方、警察ではなかなか介入できない問題でもある。児童虐待の方は、まだ保育園や児童相談所などで、保護といったことも可能であろう。それでも保育園の保母さんにしても、毎日子供がアザを作っているからといって、親御さんから「階段から転びまして…」などと笑っていわれでもしたら、なかなか児童相談所に報告するということは難しいだろう。ましてや夫婦間の暴力問題では、外では恥ずかしさの余り本人自身が、繕ってしまうこともあるだろう。これでは、警察には手の出しようもない。こういう場合には、確かに人権委員会のような委員会制で対応するしかないだろう。
しかし、である。賛成派の主目的はDV対策と書いたが、しかし実際の本法案が禁止する「人権侵害」とは、以下のようになっている。
人権擁護法案
第三条 何人も、他人に対し、次に掲げる行為その他の人権侵害をしてはならない。
一 次に掲げる不当な差別的取扱い
イ 国又は地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する者としての立場において人種等を理由としてする不当な差別的取扱い
ロ 業として対価を得て物品、不動産、権利又は役務を提供する者としての立場において人種等を理由としてする不当な差別的取扱い
ハ 事業主としての立場において労働者の採用又は労働条件その他労働関係に関する事項について人種等を理由としてする不当な差別的取扱い(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和四十七年法律第百十三号)第八条第二項に規定する定めに基づく不当な差別的取扱い及び同条第三項に規定する理由に基づく解雇を含む。)
二 次に掲げる不当な差別的言動等
イ 特定の者に対し、その者の有する人種等の属性を理由としてする侮辱、嫌がらせその他の不当な差別的言動
ロ 特定の者に対し、職務上の地位を利用し、その者の意に反してする性的な言動
三 特定の者に対して有する優越的な立場においてその者に対してする虐待
これで見ると、DV問題は、最後の1行に他ならない。おっと「職場での嫌がらせ等」に関する点については、一のロ、二のロ等になりますかね。ただし、それでも差別行為全六項目中、「人種等」を理由とするものが三つもあるというのは、やはり反対派の方々が心配する在日朝鮮人問題こそが、主目的と考えざるを得ないのではないだろうか。BewaadさんのFAQにある、「どのような人権侵害がこの法律の対象となるのか」の答えが、「暴行虐待(夫の妻に対する暴行,児童虐待等)、強制強要(離婚の強要,職場での嫌がらせ等)、住居の安全に関する侵犯(騒音をめぐる近隣間の争い等)のトップ3で約13,000件(全体の7割弱)が人権侵犯として認知されています。」では説明になっていないという他あるまい。是非残り三割の「人権侵害」がどのようなものか、さらには「人種等」を理由とする「人権侵害」がどのようなものなのかを明らかにしていただかなければなるまい。
さらにもう一つ問題がある。それは人権侵害の定義の問題である。BewaadさんのFAQによれば、これについては以下のようにある。
確かに第2条第1項の定義は曖昧です。しかし、人権侵害を禁止する規定(第3条第1項)においては例示がなされ、解釈の方向性が示されていること、単に人権侵害というだけでは強制力のある措置は発動できないこと、強制力のある措置のトリガーとなる人権侵害はより限定的な定義がなされていること(第42条第1項)、現に司法手続において基準となっている法律の規定(民法第709条など)はさらに曖昧であること(=この法律により、程度問題とはいえ曖昧さが減じること)をあわせて考える必要があると思います。
現状の「人権侵害」より曖昧さが減じるということである。確かにそれはその通りであろう。しかし問題は、この法案が必要であるという背景として、現在の日本では「人権侵害」が「存在」するということである。とすれば、もしかしたら我々が意識していない発言が、「人権侵害」とならないのか、ということである。さらにいえば、ここでいう「人権侵害」とは民法第709条など民法が定義するところの「人権侵害」の範囲内なのかどうか、ということである。
またこれと共に、議論のある点として、BewaadさんのFAQにある以下の問答である。
(Q)国際的に非難されている日本における人権侵害とは公権力によるものであるにもかかわらず、人権擁護法は公権力による人権侵害について手当がなされておらず、問題ではないか。
(A)「答申」において明記されているように、人権擁護法案は警察・入管での人権侵害を問題として指摘した国連の規約人権委員会の勧告を含む最終見解を踏まえたものです。具体的には、人権擁護法案第42条第1項第3号イにおいてそれらの人権侵害が明示的に規定されています。
これを見ると、日本には公権力による人権侵害が「国際的に非難されている」とのことである。しかし筆者には、この「国際的な非難」は全く理解できないが、例えば入管の問題を取り上げれば、これが、上述の売春目的の人身売買などの問題であるなら笑止である。それこそ新法を作る意味などないだろう。またもし国際的に非難されているという「人権侵害」が、不法入国にかかわる問題でも同様である。より法的に厳正な対応をとることだけで充分なはずである。なお、これに関しては、一部にだけ法務大臣の特権や「歴史的経緯」?などを理由に、特別永住権を与えたりすることが、何よりも差別を生み出していることだけは、あえて主張しておきたい。
何にせよ「人種等を理由としてする不当な差別」というものが、現実、どういった形で存在するのかが語られなければ、本法の是非は云々出来まい。なお、もう「ゴネ得」となるだけの議論はゴメンである。
ただし筆者は、まだ人権擁護法案について、賛否を明確にする段階にはない。実際、13,000件にも及ぶというDV問題や、職場での嫌がらせなどについては、何らかの対策が必要であると思うし、そこには人権委員会的なものが必要になるだろう。それはパリ原則に基づき内閣府の外に独立機関として設置すべきだろう。そのためには憲法改正でも何でもすればよかろう。実際、その意味では、この法案が悪だと言うつもりはない。否、時々ニュースになる児童虐待などの話を聞けば、なんとか新法でも作って対応すべきだと考える。
これに関しては、BewaadさんのFAQにある、
(Q)人権侵害については、司法手続で対応すべきではないか。
(A)「「答申」においては、(民事)司法手続については、厳格な手続であり、また、事後的な損害賠償が中心であるが故に、簡易・迅速な対応が困難であることに加え、証拠収集や費用負担などにより司法手続を活用できない被害者がいると指摘されています。
といった議論についても、大変よく理解できる。
とはいえ、この法案の執行対象の7割にもあたるはずの、これらの問題が、あくまで同法案の主目的でなく、本法案通過のための言い訳として利用されるだけで、何らか在日韓国・朝鮮人問題や同和団体問題のためのものであるなら、それこそ悪辣なたくらみであると主張したい。まずは「人種等を理由としてする不当な差別」といった語句ははずして、DV法とでもいうべきものを実現すべきなのではないだろうか。そのためならば人権委員会の設置も反対は
少なかろう。その上で、もし、本当に「人種等を理由としてする不当な差別」があるならば、別にそのための法案を作るべきではなかろうか?残念ながら、BewaadさんのFAQからは、現在の日本の「人種等を理由としてする不当な差別」の実態は見えず、それゆえ、ここで最初に書いた人権擁護法案の必要性はわからなかった。
もとより憲法第14条において。「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」とある。もしこれが、不当にゆがめられているというなら、何らかの対応が必要となろう。
皆さんの叱正を乞う次第である。
by mt.planter
| 2005-07-13 14:14